General Information 1 | 花火について

花火について

  1. 日本の花火について簡単に説明します
    1. 日本の花火と特徴
    2. 遠州・三河の花火
  2. 花火の製造工程をご紹介します
    1. 花火のしくみと製造
    2. 打上げ玉の構造
    3. 打上げ筒と打上げ方法
    4. 打上げ玉の製造
    5. 打上げ・仕掛けの準備
  3. 本サイトの参考文献リストです
    1. 参考文献

1. 日本の花火

1-1. 日本の花火とその特徴

花火に主に使われる黒色火薬は、遅くとも8世紀後半にはそのごく原始的なものが中国で発明され、初めは医薬品として使われていたとされています [吉田, 丁, 2006]。但し、火薬の起源については、中国唐代 (617-907) の原始黒色火薬がやがて爆薬としても使われるようになり、それがその後中世ヨーロッパに伝わり、戦争に活用されるようになったという説と、ヨーロッパの科学者達が、独自に近代火薬の原型となる黒色火薬を発明した [小勝,1999] など諸説あり、明確ではありません。

清水 [1998] によると、紀元前2世紀後半には既に中国で火薬が使われていたとあり、小勝 [1979] は、火薬の原料となる硝石の発見は漢代(B.C. 202-A.D. 225)まで遡ると主張しています。いずれにしても、中国においては唐代に火薬の合成が始まり、当時の皇帝の前で行われる式典で使用された [清水,1998] という記録が残っているようです。

爆薬であった火薬が、やがて見せ物の花火としても用いられるようになり、16世紀の初め頃、イタリア人の花火師が初めて軍用の火薬ロケットを花火に応用しました [吉田,丁,2006]。打上げ花火は、当時の支配者達の前や大きな宗教行事で、火を使った盛大な花火ショーを披露する事で、近世ヨーロッパ各地に広まったものと考えられています。

一方、日本の花火製造の歴史はそれよりもずっと遅れ、江戸時代初期に幕を開けます [吉田, 丁, 2006, 清水, 1998]。安土・桃山時代の16世紀半ばにポルトガル人によって日本に鉄砲が伝わってから、肥前 (有馬)、大隅 (種子島)、和泉 (桜町)、近江国 (甲賀)などで盛んに鉄砲が製造されました [伊沢, 1982]。17世紀初めには、駿府に明国 (中国) の商人とイギリス国王の使者が訪れたとき、徳川家康の前で噴出する花火が披露されました [清水,1998, 小勝,1979]。その後南蛮貿易が全盛になると、やがて日本でも、自分たちで花火を製造するようになりました [吉田, 丁, 2006, 小勝,1979]。

この様に、花火の原料である黒色火薬の原型は、古代に隣国の中国で生まれていながら、日本に火薬が伝わったのはそれから800年以上経ってからで、遠くヨーロッパからもたらされたというのは興味深い歴史です。

日本では、200年以上続いた江戸時代という平和な世の中で、打上げ玉の製造技術が成熟していきました。当初の打上げ花火は黒色火薬を用いた、暗い、色も目立たないものでしたが、19世紀後半に、マッチとともに酸化剤として塩素酸カリウムが輸入・使用され始め、いま見られる様な明るい、鮮やかな色彩の花火が作られるようになりました [吉田, 丁, 2006, 清水,1998]。(安全上の理由から、現代では塩素酸カリウムの代わりに過塩素酸カリウムを用います。)

日本の打ち上げ花火の特徴としてよくあげられるのは、八重芯菊型花火といった、割物花火の完成度の高さです [西川,1991]。この花火は1920年代に長野県の青木儀作氏によって現在の形が出来上がり、日本の花火の評価を高めるきっかけとなりました [吉田,丁,2006, 武藤,1994]。花火玉形状に関していえば、ヨーロッパやアメリカで主に用いられるのは筒 (シリンダー) 型花火であるのに対して、日本で主流なのは球形花火である [武藤,1994] ということがよく言われています。しかし最近では、日本でこれまで作られてきた手法で球形に成形する花火が世界的に作られ、打上げられています。

また、近年の花火の発展のうえで欠かせないのが、ミュージックスターマインの導入です。コンピューター制御によるミュージックスターマインは、音と花火をシンクロして打上げるもので、打ち上げ花火の演出効果を高め、より印象的な見せ方を可能にします。世界中の花火打上げ従事者達が、何らかの形でこの技術を導入しています。ミュージックスターマインは1990年代頃から日本でも全国で導入が始まり、花火屋の、これまで積み上げてきた製造技術と、各自の芸術的表現力を駆使した花火ショーとして盛んに披露されています。

近年は世界中で花火が打上げられ、オリンピックを始め大きな式典であげられる花火や花火競技会では、ほとんどこのミュージックスターマインが打上げられています。そしてスタジアムなどの巨大建築物に仕掛けられた大規模な花火ショー、大空をキャンバスとした雄大な火のミュージカルの様子は、今やインターネット、テレビなどを通じて簡単にその映像が鑑賞できるようになりました。このように、国による花火の技術や打上げ方法の差は、次第に縮まりつつあります。

しかし、いかにミュージックスターマインが隆盛になっても、日本の花火大会では、尺玉や8号玉などの大きな割物花火が特に好まれます。お祝い花火や花火の品評会も催され、1つ1つの打上げ花火の美しさ、完成度を評価して楽しむ文化が残っています。また、四季の変化に富んだ日本では、川辺や海岸で打上げられる花火大会は、夏の風物詩として欠かせない行事のひとつとなっています。

このように、日本の花火大会においては、ミュージックスターマインのようにダイナミックな花火ショーと、繊細な割物花火の技をどちらも楽しむことができる、多彩な催しとなっています。